ダンケルク(ネタバレあります)

クリストファー・ノーラン」といえば世界中が注目する監督だけど、今回も凄かった。あのクリストファー・ノーランがノンフィクションに挑戦する!という期待値の高さに恥じない傑作だった。クリストファー・ノーラン大好き。『ダークナイト』と『インターステラー』と『ダンケルク』は一生忘れられないと思う。

 

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ダンケルク』絶対に楽しみたかったから予備知識をいっぱい仕入れていったけど、知識なくても全然楽しめる。というか知識ない方がより映画の演出を楽しめるかも。知ってたら知ってたで「これ知ってる!!」ってなる場面もあるから悩みどころ。

 

以下ネタバレあります!!

 

みんな言ってるけど音楽がすごすぎ。110分間ほとんど音楽が鳴りやまなくて、しかもしかも、テンポが速くて聞いてる側だけで心臓の鼓動早くなっちゃうし、曲調がめちゃくちゃ暗いわで絶望的な雰囲気を的確に表現してる。絶望が迫ってるときって「あああ……早く早く早く……」ってなるけど終始そんな感じ。ただ誰が買うんだこんな絶望的な曲しかはいってないサントラ。

 

ダンケルクのテーマは一貫して戦争を個人の視点から「体験」することだった。第二次世界大戦の話なのにヒトラーチャーチルも1秒たりとも出てこないのすごくない?一般の兵卒からしたらヒトラーチャーチルも顔も見たことのない人だもんなあ。ついでにいうとモノローグも一切無し。状況なんて一切教えてくれない。でも兵士もそうだよね。知らないよね、そんなこと。

 

演出がめちゃくちゃ好きだった。伝えたいことがそのまま伝わってくる。ジョージっていう青年が助けた兵士に殴られて死ぬシーンがあった。でもストーリーの本筋には1mmも関係なかった。じゃあなぜ死のシーンを入れたのか、酷い話だよね理由もなく殺されちゃうって。インタビューを見てみたけどやっぱりノーランの狙いはそれみたい。

僕があの少年の死を通して訴えたかったことは、戦場の死というのは非常にランダムなもので、生きるか死ぬかの境目が決まるのは“たまたま偶然”に過ぎないという点だ

戦争ではやたら栄誉の死とかが持て囃されるけど戦争での死というのは脈絡なく訪れるもので、そこにはなんの物語もないんですよってこと。

 

ネットの感想にわざと敵の顔を見えなくしているって指摘があってなるほどなと思った。敵が人間って分からないからよりいっそう怖いんだよね。敵軍でも情けのあるやつはいるって描いた『Fury』とは確かに大違いだ。

 

ストーリーは基本的に陸(1週間)・海(1日)・空(1時間)の三つの個人の視点で進められていく。それがだんだん交わっていって三者が合流しておしまい!それでいて個人から見る戦争だったはずなのに最終的には全体像が見えるの凄いとしかいえない。ダンケルクがどういう意義をもった戦いであったかをだんだん明らかにする。これは前知識なかった方が断然よかったな……って演出。

 

場の論理(「イギリス人がフランス人より優先」「知り合いの命が優先」)と人間としての論理(「イギリス人だろうがフランス人だろうが関係ない」)が交錯しているのも見どころだと思う。極限状態のなかでは理性がどれだけ失われやすいか、理性を保つことが難しいかというのが自分が生き残るための必死さから伝わってくる。

 

ダンケルク』圧倒的な体験だった。スクリーンでみるのとDVDでみるのでは臨場感に大きな差があるんだろうなー。観客をダンケルクにつれていくのが目標らしいけど、テレビの前じゃダンケルクにはいけない。

 

蛇足として知っておいたほうがいいかもしれない知識。スピットファイアダンケルクで初投入。ドイツ軍のメッサーシュミットよりも機動性が圧倒的に上。チャーチルは本当に「三万人くらいしか救えない」と思っていたけれど、首相になったばかりのチャーチルの人望を保つために出来る限りをやった。ダンケルクが失敗していたらチャーチルは降板して他の人になってたかもしれない。ドイツ軍の陸軍が来なかったのはヒトラーの命令。戦車を使用した電撃作戦でイギリス・フランス軍をダンケルクまで追い詰めたけど、戦車部隊の消耗を恐れて空軍攻撃に切り替えた。だからメッサーシュミットとか爆撃機(名前忘れた)がいっぱいくる描写が多い。ダンケルクでは40万の兵士が救われたけど武器とか食糧は全部おいていったからむこう3年分は陸軍の戦闘能力は失われた。イギリスの兵士が、空軍はなにをしているんだって悪態をついていたのはイギリスは航空戦力を温存するつもりだったことを指しているはず。チャーチルダンケルクよりもそれよりさきのイギリスでの本土決戦に目を向けていた。そのためには航空戦力を容易に失うわけにはいけない。だから3万人しか救えないはずだった。

 

ちょっと間違えているかもしれないから指摘が欲しい。(予防線)